日本の経済がダメになった原因の「派遣社員」と「中抜き」の増加
日本の経済は20年以上停滞しています。
特に分かりやすいのが数十年横ばいの「年収」と、物価の高騰でしょう。
経済の停滞には様々な要因が絡んでいますが、結局は個人の収支と消費が増えなければ活性化はありえません。
ではなぜ自分たちの給料が増えず、物を買うことすらできなくなってきたのか?
その大きな一因となっているのが「派遣社員」「中抜き」というシステムの台頭でしょう。
派遣社員とは
今ではそこまで珍しくない雇用形態の派遣社員ですが、色々なところで嫌われているのをよく聞きます。
派遣というシステムそのものだったり、派遣社員だったり。
特に派遣社員は「まじめに仕事しない」「仕事できない」「社員食堂を使えない」というのをよく聞くでしょう。
ではどうしてそんなことになっているのか?
それは派遣というシステムと、派遣元と派遣社員の意識の乖離が原因でしょう。
派遣社員のシステム
おさらいとして、派遣社員とは一つの会社に雇用された上で、別の会社に出向して働くシステムの雇用形態です。
これは法律として認定されているシステムで、1986年に「労働者派遣法」として施工されています。
もっぱら「派遣法」という略称で呼ばれることが多いです。
元々はバイトやパート以上に正社員寄りで、かつ自由に仕事を選べるようにする雇用形態を作ろうとしたのが原因。
これによって就職のしやすさや職業選択の自由、より稼げるようにしたかったのでしょう。
しかし「雇用期限」を作ってしまったがために失業者が増加するという、本末転倒な事態を引き起こしています。
雇用期限は3年
派遣法は2000年以降に幾度か法改正をしていますが、2015年の改定が致命的な事態を引き起こします。
それが「派遣先での雇用期限を3年までとする」というもの。
個人を同一の派遣先に派遣できる期間が定められてしまったため、3年後に失業してしまう人が続出しました。
バイトやパートよりも稼げる社員寄りの制度としたのに、期限を作ったせいでかえって失業するリスクが増加する事態に。
これのせいで派遣社員はバイトやパートと同じく「非正規」の烙印を押されることになりました。
ちなみに2015年以降も2020年・2021年と法改正されていますが、雇用期限の部分を改善する気はないようです。
派遣社員の給料≠雇用主の支払額
勘違いしやすい部分ですが、派遣社員は派遣先の会社から給料をもらっていません。
派遣社員は自身が所属している「派遣会社」から給料をもらっており、派遣先が払っているのは派遣会社への派遣社員の紹介料です。
…紹介料というのはイメージしやすくした表現ですが…。
そして派遣社員を雇用している会社は、一般正社員よりも高い金額が「雇用コスト」となっているケースが多いです。
しかし仕事内容自体は派遣先の正社員とそこまで違わないこともあり、これのせいで「派遣社員は給料以下の仕事しかしない」なんて悪評が立つことも。
ただし派遣社員からの意見は違います。
派遣社員は雇用主が支払った額より数段下の給料しかもらっていません。
基本的に派遣社員の給料は派遣先が支払った額の7割ほどくらいのケースが多いようです。
例えば、派遣社員の雇用で40万円払っていても、派遣社員の実際の給料は30万円ほど、ということ。
しかし派遣先の会社は40万円を払っているので、その会社の正社員も含めて「40万円分くらいの仕事をしろよ」と思うのも当然。
でも派遣社員当人としては10万円を天引きされているので「30万円分の仕事しかする気はない」という気持ちにもなるでしょう。
こういったシステムなので、実際の派遣社員が貰っている給料は、派遣先の正社員以下の額の場合も珍しくありません。
この両者のすれ違いが派遣先の会社と派遣社員の溝やこじれの原因となってます。
儲かるのは派遣会社のみ
結局のところ、黙っていてもお金が入ってくるのは派遣会社のみ、ということ。
多分に偏見もあるでしょうが、実際に働いているのは派遣社員なのにその給料は直接派遣社員に渡らず、天引きされた状態で渡されているのが現状。
…まあそうしないと派遣会社側も会社の維持ができないでしょうが、それでも「ズルい」という感じはします。
特に派遣社員の給料が高くなる場合、派遣会社に入るお金も多くなっていきます。
派遣社員の平均年収は400万円もいかないくらいですが、給料(派遣先の会社が払うお金)が正社員より多くなる場合がいくつかあります。
・時給にボーナスなどの分が上乗せされる
専門性の高い分野・技術持ちの派遣社員は給料が高くなる傾向にあります。
こうした分野の会社でかつ即戦力を求めている場合は、即座に高い給料を払う価値が出てくるため。
そしてもうひとつの要素がボーナスなどの分が時給に換算され上乗せされるため。
派遣社員にはボーナスは支払われない反面、その分時給が高くなる傾向になります。
そのため働いた分だけ給料が鼠算式に増えていくため、残業などが多いと倍々ゲームのように給料が多くなる場合も。
こうしたケースの派遣社員の場合は「月給50万円」なんて場合もあります。
しかし派遣社員に支払われる額が多いほど派遣会社の儲けも多くなります。
派遣社員の月給が50万円なら、逆算して派遣会社側の儲けは20万円ほど。
最低賃金より少し高い程度とはいえ、現場で働いていないのにこれだけの金銭が勝手に湧いてくるということになります。
…まあ派遣会社や派遣社員もニーズがあって成立した面も多いので、全てが悪いわけじゃないでしょう。
それでも安い給料でこき使う、というイメージがあるのは事実でしょう。
中抜きとは
日本経済をダメにした要因の一つが「中抜き」という手法。
あるいは「下請け」という言い方でもいいでしょう。
これのせいで「楽して他者から搾取できる」「下請けの賃金が上がらない」といった事態になっています。
これはGDP(国内総生産)の数値にも影響が出ることがあり、日本の経済力を「下方修正」する可能性すらあります。
中抜きのシステム
中抜きのシステムで一番わかりやすいのは「下請けの下請け」という表現でしょう。
会社に依頼が出た際、当然依頼料が発生します。
例えばとある会社Aに「テーブル100個を1000万円で作って欲しい」と別会社から依頼がきたら、その会社Aは「テーブル100個」を1000万円の代金で作るわけです。(実際は利益を出すためそれ以下の金額で、ですが)
しかしこれを下請け会社に「テーブル100個を700万円で作って欲しい」とたらい回しにするわけです。
この下請け会社がテーブル100個を会社Aに納品し、会社Aは依頼者にテーブル100個を納品します。
しかしここで会社Aは一切仕事をしていないにも関わらず300万円の利益を得ています。
このシステムを「中抜き」と呼び、300万円が「中抜き」で得られた利益となります。
この「まったく仕事をしていないのに利益を得ている」という事実が問題となっています。
「下請けの下請けの下請けの…」
ただひとつ下の会社へ仕事を回すだけなら、ある程度は「紹介料」といった具合に納得することでもできるでしょう。
しかしこれが「会社A」から「下請けA」→「下請けB」→「下請けC」といった具合に、いくつもの会社をたらい回しにすることがあります。
この場合は「会社A・下請けA・B」は全く仕事をしてませんが、下請けCの出した成果を横取りする形で利益を得ています。
さらに問題なのが下請けの下位になるにつれて報酬額が激減していくという点。
先ほど「テーブル100個を1000万円で」という依頼で例えるとこんな感じ。
このように本来なら下請けCが1000万円の仕事をしているにも関わらず、実際には100万円しかもらえていません。
結局は依頼を受けた会社A・下請けA・Bが得をし、下請けCのみが割を食う結果に。
これでは下請けCがしっかりした仕事をしても見合う報酬が得られず、いつまでたっても低賃金のままです。
そして下請け会社というのは中小企業や弱小企業がなりやすく、上位の会社の搾取の対象となっています。
この中抜きのシステムが是正されない限り、貧しい人達が一定数出てくるのは避けられないといっていいでしょう。
GDPが下方修正に
中抜きというのはGDP(国内総生産)の数値にも影響を与えることもあります。
正確には正しいGDPの数値にならなくなる、といった具合です。
簡潔にGDPというものを説明すると、実際に出た儲けの金額がGDPの数値といえます。
例えば原価100円のものが110円で売れれば、差分の10円がGDPとして加算されます。
あるいはサーカスのようなショーのチケット代だったりと、経費を除いた純利益などもそれにあたります。
このように「いかに物・サービスを作り、それを売っていくか」がGDPを高くするキモといえます。
しかし報酬を中抜きされると、実際のGDPの金額に見合ったモノ作りがされていない、あるいは人員の無駄遣いといえる状態になってきます。
例えば先ほどの「テーブル100個を1000万円で」というケース。
このケースでは最終的に下請けCがテーブル100個を製造しており、極端な話他の会社Aや下請けA・Bはいなくても問題ありません。
つまり会社A・下請けA・Bの人員は全く製品開発をしておらず、無駄な人員を消費しているといえます。
そして下請けCは低賃金で仕事をせざるを得ず、社員のモチベーションも維持できないでしょうし、最悪倒産の可能性も出てきます。
これでは「安かろう悪かろう」な商品しかできないでしょう。
常々「人手が足りない」なんていっている日本経済ですが、こうした「何もしていないのに報酬を得ている」ような人員を回せれば、経済の活性化の一助にもなるでしょう。
こんな事件も…
仕事…とはいえませんが、中国でこんなことがありました。
それは「殺〇の依頼を中抜きされ続けて、最下部の人間がターゲットに偽装の協力を要請して事件が発覚した」というもの。
依頼が5人分たらい回しにされ、最初は3000万円の依頼金が最終的に150万円になるまで中抜き。
「こんな額じゃ割に合わない」と5人目の「下請け」殺し屋がターゲットに「死んだようにみせて依頼金をせしめよう」と接触。
しかしターゲットになった人物が告発して5人の殺し屋と依頼人が御用になってます。
先ほども言及しましたが、中抜きされ続けた低報酬ではまともな仕事ぶりは期待できないでしょうし、粗悪品が作られることにもつながるでしょう。
「楽して儲けたい」が根底に
派遣会社や中抜きのシステムは「楽して儲けたい」といった気持ちが根底にあって発生したものといえます。
誰だって何もせずにお金を得られるならそちらに靡くでしょうし、さほど不思議じゃありません。
しかしそれが「何の努力もせずに法外な報酬」となると話は別です。
先ほどの「テーブル100個を1000万円で」の例では、会社A・下請けA・B各社は平均で300万円の報酬を「何もせず」に得ています。
そして実際にテーブルを作った下請けCの報酬はたった100万円。
「勤勉な仕事ぶりには適切な報酬を」の法則が歪んでいる以上、日本の低賃金が改善されることはありません。
何もしていないのは経済活動をしているとは到底言えませんし、こうした企業がいる現状では日本のGDPの数値も所謂「見せかけ」。
この例では極端な話、1000万円かけて100万円相当の安物しか作れていないといえます。
これだけが原因じゃありませんが、こうした「努力をせずに下部組織から報酬を搾取する会社」を撲滅しない以上、日本経済が上向きになることはないでしょう。