日本人には牛乳は合わない? 消化・吸収できる人・できない人
牛乳を飲むとゴロゴロしたり、悪いと下痢になったりする人。
「アレルギーかも?」と不安になるかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。
その理由は、かなりの割合の日本人は体質的に牛乳が合わないからです。
これは「乳糖不耐症」という体質的に牛乳が苦手な症状で、誰でもなる…というか日本人なら大半がこの症状になるものです。
ではなぜ日本人は牛乳が苦手なのか?
牛乳アレルギーなどと併せて紹介していきます。
苦手なのは「乳糖」
日本人が牛乳の成分で苦手としているのは「乳糖(ラクトース)」という、乳製品特有の糖質です。
乳糖というのは名前の通り牛乳などに含まれており、母乳や羊乳、ラクダ乳にも含まれています。
この乳糖を消化・分解できない人がお腹を壊していることになります。
糖質を分解する酵素というと、唾液に含まれる「アミラーゼ」が有名でしょう。
しかし酵素はかなり役割が明確にされており、乳糖を分解するには「ラクターゼ」という専門の酵素が必要です。
ちなみにアミラーゼはでんぷんを中心に分解する酵素です。
アミラーゼ(唾液)は口から分泌されるため、普通の糖質であれば早くに分解されていきます。
しかしラクターゼが分泌されるのは小腸に入ってから。
つまり乳糖が分解され始めるのは、体内に入ってからかなり後になります。
小腸は消化の他に栄養素の吸収をする内臓でもあるので、ここで乳糖を消化しきれないとお腹を壊す原因にもなります。
充分な量のラクターゼが分泌されていれば問題なく消化・吸収できます。
が、問題なのがラクターゼは年を取るごとに分泌量が減っていくという点。
これが原因で乳糖の消化が間に合わずにお腹を壊しやすくなるため「牛乳に弱い」なんて人が出てくる訳です。
これを「乳糖不耐性」と呼びます。
ただ乳糖不耐性は病気ではなく誰でもなる体質的なものなので、実は過敏に心配する必要は少ないです。
乳糖不耐性は普通
この牛乳(乳糖)が身体に合わない体質というのは、実は世界的なものです。
乳糖の分解酵素であるラクターゼが加齢によって減少していくのは珍しい事ではない模様。
各国別にラクターゼが減っていく人(乳糖不耐)の割合はこうなっています。
地域 | ラクターゼが減っていく人 |
---|---|
北欧 | 2~15% |
アメリカ系白人 | 6~22 |
中欧 | 9~23 |
インド(北部) | 20~30 |
インド(南部) | 60~70 |
ヒスパニック | 50~80 |
黒人 | 60~80 |
アメリカ原住民 | 80~100 |
アジア | 95~100 |
出典:よくわかる! 乳糖不耐 一般社団法人 Jミルク
このように国・人種などで差はあれど世界の過半数以上の人が乳糖不耐性の性質を持っています。
特にアジア圏の人種はほぼ100%この体質で「日本人は牛乳に弱い」といわれるのも納得の数値。
逆に牛乳に強い人種は北欧圏の人、次点でヨーロッパや砂漠などが多い地域の人達です。
明確な理由は不明だそうですが、予想では牛乳(乳製食品)が生存に必須だったか否かという意見が出ています。
寒い・暑い地域では農耕といった食料の安定供給が難しかったため、動物の乳も大事な食料として常食されていたのは想像がつくでしょう。
例えば北欧はヨーグルトといった、牛乳を保存食にする方法まで発見されています。
エジプトなどの砂漠圏ではラクダの乳を水分補給を兼ねて常飲しています。
こうした乳製品が生活に密接に絡んだ地域では分解酵素を成人後も必要としたため、「分解酵素を維持する遺伝子」が発達していったのでしょう。
「アメリカ系白人」のアメリカ人は元々ヨーロッパから渡った人種なので、遺伝子的にはヨーロッパの人種と似通っています。
逆に昔から日本といった農耕がメインの生活をしていた人種は食料が豊富なため、保存が難しい乳製品は必ずしも必須ではありません。
その結果分解酵素が退化していったのでしょう。
狩猟がメインだったネイティブアメリカン(アメリカ原住民)も、日本人に次いでラクターゼを持っていない人種になります。
人に限らず生物は食料が豊富な場所で生活・発展していくものですから、生活圏が広がる(豊かになる)につれ退化していくのは自然なことと思われます。
そもそも、どんな動物にしろ乳を必要とするのは生まれたばかりの乳幼児だけです。
それ以降の生体(成人)になっても母乳を飲んでいる生物なんていません。
つまり年を取るほど乳を飲む機会なんて無くなるわけで、「必要ない」と退化するのも当然なのかと。
実際に授乳期以降で乳を飲んでいるのは人間くらいなものでしょう。
乳糖不耐症の症状
乳糖不耐症が原因で起きる症状は主に「下痢」と「反復性腹痛」があります。
乳糖が消化されないと、乳糖に水分が吸い取られて水っぽい便になってしまいます。
これが下痢の原因です。
また腸内菌が乳糖をエサにガスを発生させるので、これで腹部の膨張や腹痛の原因になります。
つまり分解されなかった乳糖が身体に害になるわけではなく、間接的に害を為すパターンといえます。
基本的に症状は一過性で、牛乳を飲むのを辞めれば翌日には元の調子に戻っていることが多いです。
ただ「乳糖不耐症はラクターゼの減少が原因」「乳幼児以降はラクターゼが減少する」と書きましたが、稀に乳幼児でも乳糖不耐症を発症することがあるそうです。
この場合は無糖のミルクに変えることで症状は治まります。
乳糖不耐症の改善方法
絶対に乳糖不耐症を起こさないようにするには「牛乳を飲まない」しかありません。
しかしそれでも牛乳を飲みたい人もいるでしょうし、「パンには牛乳」と食べ合わせの関係もあります。
では乳糖不耐症を改善する・抑制するにはどうすれば良いか?
ホットミルクにする
劇的な改善効果ではありませんが牛乳を温めるだけでもお腹を壊しにくくなります。
ラクターゼが活発に働くには高めの温度が必要になり、その適温は50℃ほど。
そのため冷えた牛乳ではラクターゼが活動しにくく、その分乳糖の分解が進まなくなります。
例え人肌程度でも、温めた牛乳ならラクターゼが活動しやすくなります。
ついでにお腹が冷えることでの下痢や腹痛も抑えられるので一石二鳥です。
一番手軽に乳糖不耐症を緩和する方法なので、まずはホットミルクを飲んで反応を見てみましょう。
飲む量を少しずつ増やす
個人差はあれど「牛乳をどの程度飲むとお腹を壊す」という感覚があると思います。
まずはその量ギリギリを把握し、そこから少しずつ飲む量を増やすことでも改善効果があるそうです。
例えば牛乳がコップ1杯でお腹を壊す人でも、コップ半分の量ならならない人。
この人の場合はコップ半分から少しだけ増やした量を飲むようにしましょう。
これなら悪影響を最小限に抑えられますし、長い事続けていれば飲める牛乳の許容量も増えるという寸法です。
すぐにはムリですが、恒久的に体質を改善するにはこれくらいしかないそうです。
ヨーグルト
乳糖不耐症を抑制するのにヨーグルトを食べる方法もあります。
ヨーグルトは牛乳からできていますが、実はヨーグルトに含まれる乳糖は同量の牛乳よりも少なくなってます。
これは乳酸菌が乳糖をエサにしているため。
そのため牛乳の栄養はほぼそのままに、乳糖だけを減らした状態にできます。
もう一つの効果が腸内の善玉菌(乳酸菌)を増やすこと。
乳糖不耐症が原因の腹痛は、乳糖をエサにした悪玉菌が増殖することです。
しかし乳酸菌も乳糖をエサにして繁殖するため、腸内の乳酸菌を増やせば消化しきれなかった乳糖を安全に処理してくれます。
ただどのヨーグルトでの良いわけではなく、最低限生きたまま腸内に届く乳酸菌でないといけません。
・アシドフィルス菌
・ガセリ菌
・カゼイ菌
これらの菌が使われているヨーグルトを食べると乳糖不耐症の抑制に効果が出ます。
これ以外の、死滅していまう乳酸菌では整腸効果などはあるものの、乳糖を処理してくれる菌種は限られるので注意。
善玉菌を増やすことは体調改善にも役立つので、乳糖不耐症かどうかに関わらずヨーグルトを定期的に食べていきましょう。
ラクターゼの薬
乳糖不耐症を抑制するための薬・サプリメントなども販売されています。
錠剤数粒を服用することで乳糖不耐症を抑制することができます。
ただ注意点として、薬の種類として「ラクターゼタイプ」と「乳酸菌タイプ」の薬に分かれています。
ラクターゼを使っている薬は直接乳糖に作用しますが、乳酸菌タイプでは上記のヨーグルトのように間接的に乳糖を処理するようになってます。
乳酸菌タイプはヨーグルトの錠剤バージョンで、薬というよりはサプリメントの側面が強いです。
ラクターゼタイプは乳糖不耐症専用、乳酸菌タイプはプラス整腸効果を目的にしています。
ヨーグルトを食べるのが面倒だったり、食後に手軽に済ませたいときにおすすめです。
牛乳アレルギーとの違い
乳糖不耐症と似た症状を起こす牛乳アレルギー。
しかし牛乳アレルギーは、原因と症状などで多くの違いが起きます。
まず牛乳アレルギーの原因はたんぱく質の一種の「カゼイン」で乳糖ではありません。
カゼインは牛乳に含まれるたんぱく質の主成分で、ヨーグルトやチーズの固形化した部分といえば分かりやすいでしょう。
つまり牛乳アレルギーの人は牛乳だけでなく、牛乳などの乳製品が原料の食品でも症状が出ます。
カゼインは加熱しても発酵させても成分が変化しないので、牛乳以外にもヨーグルトやチーズ・ヤギ乳や羊乳でもアウトです。
ここが大きな違いでしょう。
症状も乳糖不耐症より悪化したもので、かなりの種類があります。
・嘔吐
・胃痛
・鼻炎
・蕁麻疹や皮疹
・アナフィラキシーショック
症状で多いのが腸内異常と皮膚の炎症、ごく稀ですがアナフィラキシーショックを起こす人もいるそうです。
蜂などに刺されて発症することで有名なアナフィラキシーショックですが、あれは毒素内のたんぱく質に反応して起こっています。
それと似たようなことが(ごく稀とはいえ)牛乳でも起こる可能性がある、ということです。
乳糖不耐症は牛乳を飲まなければ即日で治る一過性のものです。
が、牛乳アレルギーは牛乳を飲んでから数日に渡って複数の症状が続く場合があります。
牛乳を飲んだ後に下痢の他にも異常が出たらアレルギーの可能性が高いので、一度診察してもらいましょう。