今のお米の値段は高いのか普通なのか、お米はどうやって作られているのか?
令和の米騒動と言われた、2024年から始まった米不足と米の価格高騰。
1年経っただけで米5キロが2000円から4000円以上と、倍以上の値上がりを見せました。
これに対し「高すぎる」「元々安すぎた」と、両極端な意見も散見されました。
では実際の所、お米を作るのにどの程度の労力やコストがかかるのか調べてみました。
稲1株あたりの量
まず、お米の稲1株にはどれくらうの米粒が実るのか?
稲1株はお米が実る「穂」が20本ほどなり、穂1本あたり50~70粒のお米ができるそうです。
つまり1株あたりの収穫量は大体1000~2000粒ほどで、重さに換算すると1000粒あたり22g程度。
そして炊いたお米の茶碗1杯分(150g)の粒数は大体3000粒ほどだそうです。
こうしたことから、米の稲1株あたりで茶碗0.3~0.6杯程度、茶碗1杯分欲しいなら2~3株分必要な計算になります。
毎日3杯のご飯を食べたいなら、一人だけでも2200~3300株もの稲が必要ということです。
お米10kg栽培するのに必要な土地
では次に重要な、お米の栽培にはどの程度の土地が必要になるのか? という点。
結論としては最低でも9坪となる30平方メートル(5.5メートル四方)の面積が必要となります。
お米を植える時は株間約20~25cmの密度で植えていき、品種にもよりますが、1坪あたり大体50株ほどだそうです。
そして稲1株あたりの量が22gとすると、10kgだと455株必要に。
1坪の面積は約3.3平方メートルとなり、約1.8メートル四方の広さになります。
1坪50株と想定すると、お米10kgを生産するには9坪の土地が必要な計算になります。
9坪は約30平方メートルとなり、約5.5メートル四方の広さの土地です。
小学校のプールの面積が25メートル×12メートルほどのなので、大体10分の1くらいの面積になります。
「10kg」と聞くと結構な土地が必要に思えましたが、意外にもお米の実る量が多いということでしょう。
かかる費用
お米10kg作るのに必要な土地はそこまで広くないものの、作るまでにかかるコストはどうなのか?
例えば、お米の銘柄で有名な「あきたこまち」。
産地は当然ながら秋田県なわけですが、秋田県で米栽培をするとどの程度コストがかかるのか?
土地の固定資産税
まず土地代…というか、土地の固定資産税から。
固定資産税は年1回、土地の購入金額の70%の1.4%を払うことになっています。
そして一般財団法人「全国農業会議所」による「田畑売買価格等に関する調査結果」によると、農地1000平方メートルあたりの価格が約110万円ほどだそうです。
つまり1平方メートルあたり1100円という計算に。
お米10kgを作るのに必要な土地の面積は30平方メートルなので、合計額は33000円の70%の1.4%が固定資産税となります。
30平方メートルあたりの土地の固定資産税を計算すると、年間維持費は323円ほどという計算に。
土地の維持代として見るなら、そこまでの金額ではないようには感じます。
お米の苗(種)
お米の苗の値段ですが、農家なら自分で収穫した種を使うため値段そのものは少し不明瞭です。
そのため市販されているお米の種から換算していきます。
実はAmazonや楽天市場などでお米の種は販売しており、2000粒で600円ほどとなっています。
この中から苗にするのに適した種を選別します。
苗にするのに適した種は全体の7割ほどとなり、実際は1400粒ほどで600円となります。
これだと1粒0.43円となり、10kgのお米の収穫に必要な455株だと196円となります。
土(肥料)代
作物を作るのに必要な要素の一つの肥料。
お米作りでも例外ではなく、毎年水田を耕して肥料を追加しています。
大体1000平方メートルあたり60kgの肥料が必要なようなので、30平方メートルだと大体2~3kgほど。
例えば、バランスよく肥料分が含まれる牛糞たい肥の場合だと40L(2000円前後)で大体15kgの量となります。
牛糞たい肥の場合なら2~3kgあたり300~400円ほどするため、肥料だけでもそれなりのコストになります。
水道代
水田に流す水ですが、水源から引いてきたり雨に頼るならコストはかかりません。
しかし最近の日本では夏場の水不足が目立っており、そうなると水道から引いてくることも多くなります。
そのため場合によっては水道代がかかるため、不測のコストが発生する場合もあります。
例えば水深を10cmの状態にしたい場合、30平方メートルの面積だと土の上だけで3トンの水が必要になります。
実際は土に染み込んでいく分もあるため、土の状態や深さによっては最低でも倍近い水量は必要でしょう。
一般家庭の浴槽が大体200リットル(0.2トン)なので、最低でも1回で30日分の水道代が必要な計算になります。
ただ、農業用に使われる水は「農業用水」という一般家庭の水道とは違う種類なため、1トンあたり4円とかなり安くなっています。
つまり30平方メートルあたりの水道料は、少なくとも1日分で12~20円、1か月間だと360~600円という計算に。
そこまで高く感じないかもしれませんが、夏場の水不足だと毎日使用することもあるためバカになりません。
昨今は東北でも気温が30度越えが普通で、35度以上も珍しくありません。
そのため7月~9月あたりは水不足になりやすく、追加で水道代がかかりやすくなります。
最低値は1200円…?
どんぶり勘定ではありますが、10kgのお米を栽培しようと思うと原価で最低でも1200円ほどかかる結果となりました。
しかしスーパーなどの小売店で米が並ぶまでには、まだまだ多くのコストがかかります。
・農薬
・人件費
・運送費
・小売店の収益
どれに・どれくらいのコストがかかっているかは、さすがに素人が外から見ただけでは計算できないため、かなり不明瞭となります。
なにより農家としては6カ月間のお米の栽培・収穫で年間収益が決まるため、より値段は高くしたいのが本音でしょう。
稲作は1~2ヘクタール(10000~20000平方メートル)といった広さでまとめて行うものですが、お米の量で換算すると3~7トンほどの収穫量になります。
仮に収穫量が3~7トンで10kg4000円ほどだった頃、農家での10kgあたりのお米の純利益が2000円だとしても、年収はった60~120万円にしかなりません。
実際には農家→JA→小売店とお米が運送されるため、その際の手数料も値段に嵩増しされ、純利益はもう少し少なく見積もれます。
これは収穫量が「1株22g」換算で行っていますが、1株あたりの収穫量が倍になっても年収は300万円にも届きません。
統計結果では米農家の年収は平均で約190万円・中央値で約100万円ととんでもなく低いそうです。
中央値より平均値が高いことから、よほど広大な土地を持った農家でしか満足いく収益を上げられていないことを意味しています。
安いと廃業・高いと買わないジレンマ
以上のことから、10kg4000円の場合は米農家としての米の値段はかなり安いといえるかと。
米は主食であるのも理由でしょうが、ブランドものの米でもそこまで値段は高くありません。
おまけに日本におけるお米の自給率は100%であり、それが理由でお米の価格調整のための減反政策が取られたりもしました。
そのため収穫量を増やしても稼ぎにならず、品質をいくら高めても高収益にはなりにくいのも要因でしょう。
しかしだからといって今のように10kg1万円クラスの値段では米離れが加速するでしょうし、かといって低いままだと廃業。
このあたりが日本の米事情のジレンマでしょう。
私の実家の周りは昔はあたり一面が稲作農地でしたが、今ではほとんどが住宅地となり、残った農地も畑となってしまっています。
稼ぎの低さ・後継者不足などといった要因で米農家を廃業している人が多くなっているのを実感します。
実際店頭で表示される米の金額のいくらが米農家に入っているのかわかりませんが、「米農家は儲かる」くらいのイメージが付かないと、今後の生産量にも響いてくるでしょう。
過剰な値段設定、あるいは中抜きされた結果高くなるのでもなければ、ある程度の値段上昇は許容すべきかもしれません。
中抜き…?
この記事を書いている最中に気になるニュースが。
そのニュースで農家さんは「どうしてスーパーで米が高値で売られているのか?」と不思議がっていたそうな。
それは2024~2025年度において、東北の農家では30キロで9000円ほどの値段で卸している、というもの。
この場合10キロ3000円ほどとなり、スーパーなどで並んでいる10キロ9000円と比べると6000円も差額が出ます。
一体この6000円はどういった経緯で出るのか、あるいは消えているのか?
米本体の2倍の金額が運送費などで消えているとは思えませんし、これなら「JAによる値段の吊り上げ」「中抜き」といったコメントが散見されても不思議じゃありません。
実際備蓄米が放出されても値段は下がるどころか上がる一方。
昨今の日本ではオリンピックしかり、中抜きによる横領まがいの手法が取られることが多く(発覚しやすく)なっている感じがします。
JAやスーパーはあくまで「仲介者」であって、一番利益の還元を受けるべき「生産者」ではありません。
利益を農家の人達に還元するならまだしも、自分たちの儲けにして黙っているのなら許されることではありません。